ブタインフルエンザ。 2009年ブタインフルエンザは集団ヒステリーであったのか

ブタインフルエンザ0427

ブタインフルエンザ

1 インフルエンザとは何か? 「インフルエンザ」は、主に呼吸器に感染するインフルエンザウイルスが引き起こす病気です。 16 世紀のイタリアでは、インフルエンザは「天体の影響」によって起こると考えられ、イタリア語の「影響」を意味する「 influenza 」という名前が付きました。 インフルエンザは、 1 〜 3 日の潜伏期間のあと、関節痛・筋肉痛・全身倦怠感などを伴う「風邪症状」を引き起こします。 症状が似ているため、「風邪」の一種だと思われがちですが、普通の風邪とは同列に語れないほどの危険性を持つ病気です。 そのため、症状の出始めから、激しい全身症状が表れ、寝込んでしまうことが多いです。 腹痛・嘔吐・下痢といった消化器症状を伴う場合もあります。 まれに通常の風邪程度で済むこともありますが、たいしたことないと思って外を出歩くと、インフルエンザウイルスを周囲にばら撒いて、感染を拡大させることになります。 これが、冬季にインフルエンザが流行する理由です。 さらにこの時期は、気温が下がって、人間の免疫機能も低下するので、なおさらインフルエンザにかかりやすくなるのです。 冬季は屋内で過ごす人が多くなり、換気の回数も減少するので、集団感染のリスクも高まります。 日本では、毎年 11 月下旬から 12 月上旬頃に最初の発生が起こり、翌年の 1 〜 3 月頃にその数が増加してピークを迎え、 4 〜 5 月頃に流行が収まるパターンです。 全世界では、毎年 300 〜 500 万人がインフルエンザに感染し、 25 〜 50 万人の死者を出しています。 先進国における死者は、 65 歳以上人口で最も多く、また病欠・生産性低下といった社会的コストも大きいです。 1 「インフルエンザウイルス」の表面には突起が付いており、これで宿主細胞の表面に吸着する インフルエンザの危険な点は、その強力な「感染力」にあります。 「電車に 30 分程いたとして、そこに発病中の人が乗っていて、その人が 1 回クシャミをしただけで、 8 割以上の乗客が感染してしまう」というぐらいに、強力な感染力を持ちます。 インフルエンザにかかった人の体内、特に気道粘膜などの呼吸に関係するところには、インフルエンザウイルスが増殖しています。 そのウイルスは、咳やクシャミに乗って、周囲の空気にばら撒かれます。 一方で、直接ではないにしろ、咳やクシャミでばら撒かれたウイルスが空気中に浮遊し、それを近くの人が吸い込めば、「空気感染」になります。 空気中に唾液などの飛沫に混じって「エアロゾル」として放出されたウイルスは、クシャミ 1 回で 10 万個にも及び、空気中で 30 分近くも高い感染力を保ちます。 そして、ウイルスが数個ほど侵入しただけで、感染する危険性を持っています。 呼吸器だけでなく、目や鼻の粘膜などからも侵入するので、インフルエンザに感染している人が近くにいる場合、感染を防ぐ手段は、ほとんどありません。 1 個のインフルエンザウイルスは、 8 時間で 100 倍に、 24 時間で 100 万倍になり、感染から 1 〜 3 日ほどで、感染可能な発病状態になります。 このように、インフルエンザは極めて高い感染力を持ち、ヒトの遺伝子の突然変異の 1,000 倍という驚異的な速度で変異するため、生物兵器としては危険すぎて、使用できないともいわれています。 1918 年から 1919 年にかけて世界中で大流行した「スペイン風邪」では、地球の人口の半分とも、 10 億人ともいわれる人が感染し、数千万人が死亡、日本でも 39 万人以上が死亡しました。 当時は第一次世界大戦の最中で、まず連合国軍の、次いでドイツ軍の陣地を、インフルエンザウイルスが襲いかかり、戦局に重大な影響を及ぼすほど多くの患者と死者を生み出しました。 アメリカの記録では、この「スペイン風邪」によるアメリカ軍兵士の死亡者数は、戦闘による死亡者数を上回っていたといいます。 そして、第一次世界大戦そのものも、この大惨事によって、終結が早まったほどでした。 1919 年に終息を見るまでに、感染者が北極圏から南太平洋の小島にまで出現し、人類の感染症の歴史上最大の「パンデミック 世界的大流行 」となりました。 2 第一次世界大戦下、「スペイン風邪」は史上最大の「パンデミック」となった なお、インフルエンザの病原体はウイルスですが、「インフルエンザ菌」というものもあります。 これは、まだインフルエンザウイルスが発見されていなかった頃、日本の細菌学者である北里柴三郎が、重症のインフルエンザ患者の気道上皮細胞から検出した細菌です。 「これがインフルエンザの病原体なのではないか」ということで、「インフルエンザ菌」と命名されました。 この菌を感染させた実験動物が、咳や発熱などの症状を示すことも、誤解を深める原因となったようです。 何だかややこしいようですが、インフルエンザ菌は、インフルエンザウイルスに感染して、免疫力が低下した患者に「二次感染」するものであり、これがインフルエンザの原因となるものではありません。 インフルエンザは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる感染症です。 インフルエンザウイルスは、ヒトの他に、ウマやニワトリ、ブタ、クジラ、アザラシなどにも感染します。 突然変異を繰り返し、遺伝子を少しずつ変化させながら、数々の哺乳類を巡回するように感染していくのです。 インフルエンザウイルスには、遺伝子複製の際に起こるエラーの修復機構が存在せず、ウイルス同士の遺伝子の組み換えも発生しやすいため、動物での感染が拡大するほど、「新型インフルエンザ」が発生する可能性は高くなります。 ヒトに感染する前にニワトリで大規模な被害が出ることが多いので、「トリインフルエンザ」の蔓延には、随分と慎重になっている訳です。 現在では、東南アジア付近を中心にして発生している毒性の強い新型インフルエンザウイルスが、近い将来突然変異を起こし、ヒトからヒトへの感染能を獲得してしまうのではないかと恐れられています。 3 「トリインフルエンザ」から「新型インフルエンザ」が発生する危険性がある インフルエンザウイルスは、本来はカモなどの水鳥を自然宿主として、その腸内に感染する弱毒性のウイルスであったものが、突然変異によって、ヒトの呼吸器への感染性を獲得したものと考えられています。 インフルエンザウイルスは、ウイルス粒子を構成するタンパク質の免疫原性によって、大きく「 A 型インフルエンザウイルス」・「 B 型インフルエンザウイルス」・「 C 型インフルエンザウイルス」の 3 種類に分けられます。 普通に「インフルエンザ」という場合は、特に A 型か B 型のものを指し、その中でもさらにヒトに感染するものを意味する場合が多いです。 「 A 型インフルエンザウイルス」は、ヒトの他にウマ、ニワトリ、ブタ、クジラ、アザラシなどに感染するウイルスです。 スイスのノバルティス社が販売する「アマンタジン」という薬が有効なことが、昔から知られています。 流行性が最も強くて、症状が重いのが特徴です。 よくニュースなどで耳にする「トリインフルエンザ」は、一般的に危険なものというイメージがありますが、トリとヒトでは、細胞表面の構造が異なるため、一般的に「トリインフルエンザ」がヒトに直接感染したり、「ヒトインフルエンザ」がトリに直接感染したりする可能性は低いです。 仮にヒトがトリインフルエンザに感染したとしても、ヒトからヒトへの伝染は起こりにくいと考えられています。 しかし、このウイルスの遺伝子が突然変異を起こしたり、ニワトリやブタの体内で、他のタイプの A 型ウイルスと出会って遺伝子の組み換えが起こったりすると、ヒトからヒトへと感染して、パンデミックを引き起こすような危険なウイルスに姿を変えることがあります。 特にブタは、「ヒトインフルエンザ」と「トリインフルエンザ」の両方に感染することが知られているため、ブタの体内で「遺伝子再集合」が起こってウイルスの遺伝子が混じり合い、「新型インフルエンザウイルス」が出現する可能性が指摘されています。 なお、最近流行する A 型ウイルスには、アマンタジンが効かないケースが増えているといいます。 これは、中国で感染予防のため、アマンタジンが家畜の餌に混ぜられて、大量に使用されたために、「薬剤耐性」をウイルスが獲得したためです。 4 「アマンタジン」は、「 A 型インフルエンザ」の治療薬として知られている 「 B 型インフルエンザウイルス」は、ヒトとアザラシだけに感染し、流行性がやや強いウイルスです。 A 型の流行が終わった直後の 2 月から 3 月頃にかけて流行することが多いインフルエンザです。 宿主域が狭いので、 A 型のようなパンデミックの危険性はありません。 しかし、 B 型にはアマンタジンが効かないので、スイスのロシュ社より販売されている「タミフル」が出てくるまで、なかなか有効な薬がありませんでした。 A 型では、アマンタジンに耐性を持つウイルスがすでに出現しているので、十数年もすれば、タミフルの効かない B 型が出てくる可能性もあります。 B 型は、高熱にはなりにくいものの、体内にウイルスが残留する期間が長いため、身近な人に移してしまう危険性が懸念されます。 「 C 型インフルエンザウイルス」は、あまり耳にすることがないかもしれませんが、ヒトとブタだけに感染し、流行性が低いものの、免疫力の弱い 5 歳以下の子供が感染する危険性があるウイルスです。 A 型と B 型が「季節性インフルエンザ」なのに対し、 C 型は「通年性インフルエンザ」です。 小児期にほとんどすべての人が感染しますが、この時期に感染しなかった場合は、大人になってから感染することがあります。 しかし、感染したとしても、インフルエンザと認識せず、風邪と間違える程度です。 C 型は、感染力の弱さや症状の気付きにくさから、流行性はほとんどありません。 さらに、一度感染すると、免疫はほぼ一生持続するため、人生で 2 回かかることもまれとされています。 2 インフルエンザウイルスの分類別特性 型 特徴 主症状 流行シーズン A 型 ウイルスの変異が著しく、 100 種類以上の亜型が存在する。 毎年少しずつ変化しながら、世界中で季節性の流行を引き起こす 高熱・上気道炎症・呼吸器疾患。 肺炎やインフルエンザ脳症などの合併症を起こす危険性あり 12 〜 3 月 B 型 ウイルスが A 型よりも変異しにくいので、予防接種により抗体を作ることが可能。 A 型ほどの流行は起こさない 高熱・上気道炎症・呼吸器疾患。 A 型よりも症状は軽度の場合が多い 2 〜 3 月 C 型 表面を覆う突起の性質が A 型や B 型と大きく異なる。 感染力が低く、 5 歳以下の小児に主に感染する。 季節性流行は起こさない 鼻汁過多を特徴とする鼻風邪様の症状を呈する。 一度罹患すると、免疫はほぼ一生持続する 通年 ほとんど特効薬のないインフルエンザウイルスですが、化学の目で見ると、弱点もあります。 つまり、インフルエンザウイルスは、油の膜で守られているのです。 そこで、有機溶媒はもちろん、洗剤のような界面活性剤が弱点になります。 セッケンで洗ったり、アルコールで洗浄したりすると、インフルエンザウイルスは油の膜が剥がれて、即死します。 ウイルス感染は、空気中のエアロゾルだけでなく、手や衣類に付着した飛沫からも起きることがあるため、手洗いが感染予防に有効です。 うがいをするときに飲み込む人がいますが、胃の中に入ると、インフルエンザウイルスは胃酸で即死します。 2 恐怖の新型インフルエンザ 2009 年のメキシコ発の「新型インフルエンザ H1N1 型 」は、瞬く間に世界中に感染拡大してパンデミックとなり、大騒ぎになりました。 振り返ると、あのウイルスはほとんどの人が軽症で回復し、致死率も季節性インフルエンザと同じぐらいのものだったので、そこまで大騒ぎする必要はなかったように思えます。 それでは、なぜあのような大騒ぎになったのでしょうか。 それは、インフルエンザの中には、「 H5N1 型」という悪魔のようなウイルスがいるからです。 1918 年から 1919 年にかけて大流行した「スペイン風邪」では、世界中で数千万人が死亡しました。 これは、結局「 H1N1 型」のインフルエンザでしたが、当時はインフルエンザではなく、「風邪」の一種であると考えられていました。 スペイン風邪は、「弱毒性」のインフルエンザだったからです。 それでも、スペイン風邪では、致死率が約 2. そして、「 H5N1 型」のインフルエンザは、スペイン風邪よりもかなり強い毒性を持っていると考えられているのです。 「弱毒性インフルエンザ」は、ヒトの呼吸器や腸管のみで増殖し、主に呼吸器疾患を引き起こします。 喉が痛くなり、鼻が詰まります。 そして、気管支炎になり、酷い場合には肺炎になります。 ダメージを受けるのは呼吸器系だけですが、それでも人は死ぬことがあります。 ところが、「強毒性インフルエンザ」は、呼吸器感染に止まらず、脳を含む全身の臓器でウイルスが増殖して、全身感染を引き起こします。 さらに、ウイルス感染に対する過剰な生体防御反応、すなわち「サイトカインストーム」が起こる結果、様々な臓器が障害を受け、多臓器不全がもたらされる危険性があると考えられています。 ところが、現在では飛行機や新幹線などの交通手段が発達しているため、仮に新型インフルエンザ H5N1 型 が流行した場合、ものの 4 〜 5 日で、ウイルスは世界中に伝播すると考えられています。 そして、これを食い止めることは、ほぼ不可能なのです。 なぜなら、インフルエンザの感染期間は発熱前にもあるので、疫病が判明して、感染が広がっていると判明した時点では、もうすでに感染者が移動しているからです。 こういう意味で、 2010 年のインフルエンザ流行時に行われた空港の体温検査などは、全く効果がないと主張する研究者さえいました。 新型インフルエンザ H5N1 型 が流行すると、最悪の場合では、 64 万〜 210 万人が死亡すると想定されています。 もちろん、ライフラインの寸断など、生活にも大きな影響が予想され、経済的損失は、世界で 500 兆円を超えるという試算もなされています。 新型インフルエンザ H5N1 型 は、現在人類が直面する「最も大きなリスク」といっても過言ではありません。 5 新型インフルエンザにより、死者・行方不明者 10 万人を出した「関東大震災」の数倍以上の犠牲者が出ると考えられている 日本で新型インフルエンザ H5N1 型 が流行しそうになった場合、トリインフルエンザを基にして、厚生労働省が予防のための「プレパンデミックワクチン」を製造し、 1,000 万人分規模の備蓄をするそうです。 このワクチンは、新型インフルエンザ H5N1 型 の発症を完全に防ぐことはできませんが、重症化を防いで、致死率を大幅に下げると考えられています。 しかし、 1,000 万人分規模の予防ワクチンの使用優先順位は、まず医療従事者である医師と看護師です。 医療従事者は感染する可能性が高く、医療体制を維持するためにも、これは当然のことと考えられます。 それから、国会議員とライフライン従事者にも優先的に予防ワクチンを打ちます。 そして残念ながら、一般市民には予防ワクチンは回ってこないのです。 残りの 1 億人以上への対応としては、厚生労働省は発症後、タミフルを服用することで対応しようとしています。 ただし、ウイルスは突然変異を起こすこともあり得ます。 そして、タミフルへの耐性を持ったインフルエンザも現れると考えられています。 新型インフルエンザ H5N1 型 に関しては、まだヒトからヒトへの感染が広まっていないので、当面はタミフルで対応できると予想されています。 しかし、実際にはどうなるか見当も付きません。 タミフルで応急対策したあとでは、厚生労働省は実際に流行している新型インフルエンザウイルスを基にして、「パンデミックワクチン」を製造します。 このワクチンは、実際に新型インフルエンザ H5N1 型 が発生しなければ、製造できません。 そのため、新型インフルエンザ H5N1 型 が発生してから、少なくとも半年ほどはかかり、全国民分を用意するのには、 1 年以上かかると予測されます。 実際に 2009 年の新型インフルエンザ H1N1 型 では、発生から約 6 カ月後にパンデミックワクチンの接種が開始されましたが、すでに流行は下火になりかけており、せっかく製造されたパンデミックワクチンが大量に余ってしまう結果になりました。 4 「パンデミックワクチン」と「プレパンデミックワクチン」の違い パンデミックワクチン プレパンデミックワクチン 接種対象者 国民全員 医療従事者・国会議員・ ライフライン従事者 備蓄量 備蓄不可能 1,000 万人分備蓄 製造時期 パンデミック発生後 1 年半で国民全員分を製造 パンデミック発生前 インフルエンザ H5N1 型 は、現在は「 H5N1 型のトリインフルエンザ」といわれています。 まだ、ニワトリの間でしか感染が広まっていないからです。 ただし、ニワトリから人間に感染することもまれにあります。 トリインフルエンザは、ニワトリからブタを経由してヒトに感染することが多いのですが、ブタを介さずにヒトに直接感染するという事例も数多く報告されているからです。 ただし、ヒトからヒトへと感染したという事例は、未だ報告されていません。 疑われた例はあるにはあるのですが、途上国は情報を隠蔽しますし、少なくとも日本では発見されていないのです。 もしインフルエンザ H5N1 型 が、ヒトからヒトへと普通に感染するところまで突然変異した場合、瞬く間にウイルスは広がり、大勢の死者が出てくると想定されます。 名前こそインフルエンザですが、全く別物の病気と考えるべきでしょう。 日本では、養鶏場でトリインフルエンザが発生した場合、発生地点の 5 〜 10 km 範囲のニワトリなどをすべて殺処分しています。 「やりすぎじゃないか?」と思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。 感染を防いでおくためにできることをしておかないと、すぐに人間の世界で蔓延してしまうからです。 ただし、地球の裏から表にすぐに感染者が広がってしまう時代ですから、他国もきちんと対策を取らないと、結局はパンデミックが起こってしまいます。 先進国は、感染者が出たときには公表して封じ込めますが、途上国は必ずしもそうではありません。 新型インフルエンザ H5N1 型 の流行を防ぐためには、一地域に留まらない世界的な対応が不可欠なのです。 6 トリインフルエンザが確認され次第、都道府県知事の権限により、殺処分命令が発せられる 3 タミフルは安全なのか? インフルエンザ対応の基本は「ワクチン療法」ですが、これはウイルスが出現してからでないと作成できず、また供給に半年ほどの時間を必要とします。 その間のつなぎとして期待されているのが、スイスのロシュ社が販売する抗ウイルス剤の「タミフル 化合物名:リン酸オセルタミブル 」です。 タミフルは、日本では 2001 年から使われています。 タミフルのメカニズムは、ウイルスの増殖を防ぐのではなく、増殖してしまった子ウイルスの拡散を防ぐというものです。 インフルエンザウイルスは、宿主細胞の表面にある「シアル酸」に結合して、細胞内部に入り込んで増殖します。 しかし、増殖したウイルスが細胞外へ出ようとするとき、大きな問題が生じます。 細胞表面には、多数のシアル酸分子が存在しているからです。 つまり、増殖した子ウイルスがそのまま細胞外へ出ても、表面にあるシアル酸に結合してしまって、遠くに拡散することができないのです。 そこで、ウイルスは「ノイラミニダーゼ」という酵素を働かせ、細胞表面のシアル酸を切り取ってしまいます。 すると、引き止めておくものもなくなるので、子ウイルスたちは無事に細胞外へと脱出していき、次の細胞へと感染を広げていける訳です。 7 インフルエンザウイルスは、細胞表面にある「シアル酸」に結合することで、細胞内部へと進入する インフルエンザウイルスの持つノイラミニダーゼに結合し、その働きを食い止める化合物を送り込めば、ウイルスは外部へと拡散できなくなり、感染拡大を抑えられるはずです。 最初に、シアル酸によく似た化合物が作られ、これを体内に送り込めば、インフルエンザの症状悪化を食い止められることが明らかになりました。 ただし、この化合物は口から飲み込むと、上手く吸収されないために医薬になり得ません。 そこで、噴霧器で薬を喉に吹き付けて、粘膜にいるウイルスを直接狙う形で投与を行う手法が考えられました。 これが「リレンザ 化合物名:ザナミビル 」です。 リレンザは、 B 型には効きにくく、 C 型には無効ですが、 A 型のインフルエンザに有効でした。 これは、 C 型がノイラミニダーゼを持たないためです。 また、この薬の投与には「ディスクヘラー」という専用の吸入器具を必要とし、特に子供や高齢者への投与には問題がありました。 8 「リレンザ」は、世界で最初に開発された抗インフルエンザ薬である そこで、このリレンザの化学構造を変換し、経口投与可能な薬に仕立て上げたものがタミフルです。 タミフルは、飲みやすさや手軽さから広く受け入れられ、抗インフルエンザ薬の市場を席巻する大ヒットとなりました。 タミフルは、リレンザと同様に B 型には効きにくく、 C 型には無効ですが、 A 型のインフルエンザには有効であるとされています。 タミフルは、増殖してしまった子ウイルスの拡散を防ぐ作用を持つので、感染初期 発症後 48 時間以内 のウイルスがまだ少数のうちに服用すれば、症状の悪化を防ぐことができます。 十分な量のタミフルを確保することができれば、新型インフルエンザ H5N1 型 による死者・入院患者は、 3 分の 1 にまで減らせるという予想もあり、現在最も効果が期待できる薬剤と考えられています。 9 「タミフル」は、 新型インフルエンザ H5N1 型 にもある程度有効であると考えられている そのタミフルに「副作用」の問題が浮上してきたのは、 2005 年 11 月のことでした。 インフルエンザの患者の少年が、タミフル服用後に、自らトラックに飛び込むなどの「異常行動」を起こし、 2 名が死亡したというものです。 その後、 10 代の患者を中心に、マンションから飛び降りる、訳の分からないことを言いながら部屋を駆け回る、笑いながら階段を上り始めるといった異常行動の報告例が増え続け、マスコミの報道も、それに合わせてヒートアップしていきました。 発売元の製薬会社や厚生労働省は、ニュースや週刊誌などで集中砲火を浴び、「悪魔の薬」や「薬害エイズ事件の再来」といった過激な論調の記事も少なくありませんでした。 厚生労働省では、しばらく「タミフルとの因果関係の特定は困難」としてきましたが、世論の高まりを受けて、 2007 年 3 月に「因果関係は不明であるものの、 10 代の患者のタミフル使用を差し控えるよう」通告する事態となりました。 こうして使用制限がなされるまでの間に、タミフル服用後に異常行動 ベッドの上で飛び上がった程度のものまで を起こした人数は 211 名にも及び、その 8 割が 10 代でした。 うち十数名が、窓からの転落などによって亡くなっています。 10 2005 年 11 月 12 日、タミフルを服用していた 2 名の患者が異常行動の結果、事故死していたことが報道された 世間では、こうしたタミフルに対する批判的なイメージが根強く、インフルエンザの治療にタミフルが使用されることを支持しないという人も、少なからず存在します。 しかし、タミフルの服用者は、日本では延べ 3,500 万人〜 4,500 万人ほどと見られていますが、軽度な異常行動の報告は 200 件前後、転落死などの重度な異常行動の報告は 20 人弱に過ぎません。 つまり、そのすべての原因がタミフルによるものであったと仮定しても、異常行動を起こす確率は約 20 万分の 1 、転落死する確率は約 200 万分の 1 程度ということになるのです。 この 200 万分の 1 という確率は、交通事故で死ぬ確率 1 万分の 1 、航空事故で死ぬ確率 20 万分の 1 よりも、十分に小さい数字です。 そして、航空事故はいくら気を付けていても避けようがありませんが、異常行動による転落死は、周囲で気を付けていれば、かなりの割合で防げるリスクです。 異常行動を起こしそうな患者を、 1 人にしないようにすればいいだけですから。 「 1 万分の 1 以下のリスクなら、受け入れるのが現代人の姿勢だろう」と述べたケンブリッジ大学のジョン・エムズリーのように、私たちはこの程度のリスクは、許容して然るべきだと思います を参照。 そして、各種のデータを見る限り、タミフルによるインフルエンザの治療は、十分有効であると考えられるのです。 流行する型によっても異なりますが、インフルエンザはいったん流行し始めると、国内だけで毎冬 1,000 万人もの人々が感染し、そのうちの 1,000 人ぐらいが死亡することは珍しくありません。 タミフルは、この死者数を大幅に減少させることができるのです。 きちんとタミフルを服用することにより、インフルエンザによる致死率が大幅に低下したという報告が、欧米の複数のグループからなされています。 すなわち、タミフルの承認を取り消すということは、こうした恐ろしい病気であるインフルエンザの有効な治療手段を、奪い去ってしまうということになるのです。 もちろん、単純に罹患期間が短くなることで、他人に感染させる確率が下がること、患者の身体的、経済的負担が減るなどの効果も見逃せません。 それに加え、そもそもタミフルを服用した際の異常行動が、タミフルが原因であると簡単に帰結することはできないのです。 まず、こうした異常行動は、インフルエンザ単独の症状「インフルエンザ脳症」として、まれに起こることが以前から知られていました。 つまり、異常行動はタミフルのせいなのか、インフルエンザそのもののせいなのか、区別を付けるのは非常に困難なのです。 実際、三重県のある病院では、異常行動を起こしたインフルエンザ患者が、一冬に 14 人入院しましたが、うち 6 例は、タミフルの投与前に異常行動が起こっていたということです。 また、厚生労働省の調査班は、 2007 年 12 月に「 18 歳以下のインフルエンザ患者 1 万人を対象とした大規模調査の結果、タミフル使用者の方が非服用者に比べて異常行動は少なかった」という結果を発表しています。 扁桃腺炎で高熱を出した小児が、異常行動を起こしたという例もあり、こうした異常行動は、いわゆる「熱に浮かされた」状態では、まれに起こり得ることなのです。 そして、タミフルが直接脳に作用して異常行動を引き起こすという説もありますが、実際には、タミフルが脳内に入り込むことはありません。 摂取した薬剤は、血液に乗って全身に運ばれますが、脳と血管の間には、「血液脳関門」と呼ばれる物質の移動を制限する関所のようなものがあり、タミフルのような極性の高い分子は、これを通過できないようになっているのです。 2006 年 7 月にタミフルを飲んだあとで転落死した少年の遺体を解剖した結果、血液中には十分な量のタミフルが存在したのに、脳からは全く検出されませんでした。 また、脳内の主要なタンパク質 155 種について、タミフルと相互作用するものがあるかどうかの試験が行われていますが、強く結合して影響を与えるものは見つかっていません。 通常の季節性インフルエンザによる死亡者は、小児と老年層に多いのですが、新型インフルエンザ H5N1 型 では、 10 代から 30 代までの若年層の致死率も高くなると想定されています。 新型インフルエンザ H5N1 型 のパンデミックが発生してしまったとき、「異常行動が怖い」とタミフルを拒否する若者が出てきたら、それは安易な刺激や数字だけを求め、危険を煽るだけ煽ったマスコミの責任です。 異常行動が問題となった 2007 年以降、タミフルの 10 代への処方は原則禁止となっています。 総合的にリスクと利益を考えた場合、現時点では新型インフルエンザ H5N1 型 に対して、 10 代であろうと、タミフル服用をためらう理由は何もありません。 どんな物事にもいえることですが、私たちはリスクと利益を正確に見定め、その是非を判断しなければならないのです。 4 新薬ゾフルーザにも耐性ウイルス 2018 年に販売が開始されて話題となったのが、塩野義製薬が開発したインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ 商品名バロキサビル マルボキシル 」です。 症状改善効果は従来使用されてきたタミフルとほぼ同様であり、内服が 1 回で済むなどの簡便性から、 2018 年度は既存の抗インフルエンザ薬を上回るシェアを誇り、 263 億円を売り上げました。 ゾフルーザは、タミフルやリレンザなどのノイラミニダーゼ阻害薬とは作用機序が異なり、ウイルスが細胞内に侵入したあとに増殖するために使う酵素を阻害し、ウイルスの複製を阻止する作用があります。 ウイルスが増殖できずにそのまま死滅するため、 1 回の投与で 1 日以内に症状を抑える効果があります。 タミフルなどと比べて早期に効果があるため、抗ウイルス効果が高いとされ、投与翌日には半数以上の患者で、感染性を持つウイルス量が減っていることが認められました。 11 「ゾフルーザ」は 1 回の投与で治療が完了するので、爆発的にヒットした しかし、ゾフルーザの販売直後から、耐性ウイルスが話題になってきました。 2019 年 11 月、東京大学のチームは、ゾフルーザを投与された患者から、ゾフルーザ耐性ウイルスを検出したと発表しました。 この研究によると、特に 15 歳以下の小児の 3 割程度に耐性ウイルスが検出されているといいます。 日本感染症学会インフルエンザ委員会では、ゾフルーザの小児への使用について、「小児では慎重に投与を検討すべき」という提言を発表しています。

次の

鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

ブタインフルエンザ

2009年に発生したブタインフルエンザは本当にパンデミックインフルエンザであったのか?それとも製薬業界と結びついた専門家やロビイストによる、集団ヒステリーへの煽動では無かったのか?そうした中でWHOはどのような役割を果たし得たのか?疑問を呈した。 世界に大きな反響を起した。 以下、その論説の概要を筆者のコメントを交えて紹介する。 最初にシュピーゲルの編集者達が奇異に感じた事実として、ブタインフルエンザが流行しだした2009年6月頃、WHOや各国の保健担当者が想定した死者数と、流行が終息状態に入った時点での死者数が余りにも違いすぎることだった。 WHOは世界で少なくとも200万人は死亡すると予想したが、現実には16500人の死者しか出ていない。 一方、米国保健当局は20万人の死者が出るとしたが、現実には公式確認死者数2600人(12000人:推定値)前後、さらにドイツでは10万人の死者が予想されたが、実際にはなんと240人に過ぎなかった。 こうした状況は英国でも同じだった。 もちろんWHOが言うように正確な死者数の把握は1年以上要するかも知れない。 しかし、その数値が一桁も二桁も増えるとは思えない。 保健当局者および専門家達が当初予想した数値よりも一桁以下も少ない死者数に、シュピーゲルの編集陣は大きな疑問を抱いた。 専門家達はパンデミックインフルエンザとしての判断から死者数を想定したが、その死者数が想像を絶する程少なかったことは、このブタインフルエンザがパンデミックインフルエンザの定義に合致するのかが問題となる。 シュピーゲルでは定義に関わるいくつかの問題を露わにした。 WHOでは国際保健規則(International Health regulations :IHR)を定めていて、そこでパンデミックが定義されている。 その定義によると、新ウイルスが世界の数カ所で拡大し続けて、制御がつかない状態とされる。 規則では病原性の程度については触れていない。 要するに鼻水程度の症状のインフルエンザでも、世界中に広がるとパンデミックと呼ばれることになるという。 しかし現実的には疫学専門家の大多数はパンデミックという用語を、病原性の高いウイルスと結びつけて考えてきていた。 しかし、CNNのレポーターが、発生しているブタインフルエンザの臨床症状が軽度であることから、WHOのQ&Aのパンデミックの定義には当てはまらないことを指摘すると、WHOは2009年5月4日、ウエブから突然それを削除した。 それは極めて不可解なWHOの行動ではあったが、シュピーゲルではさらに以下のように詳細に事態の推移を伝えている。 香港の保健局長官も、パンデミックの定義を更新すべきだと語っている。 オーストラリアの疫学者で、パンデミック宣言を論議したWHOの緊急会議の座長であったマッケンジー氏も後から次のように語っている。 我々はフェーズ6(パンデミック)の定義を調整し、疾患の重症度をも考慮に入れる必要があった。 また5月には、WHO自身もマッケンジー氏が示唆したような方向で定義を改正することを考えていたとされる。 しかしその後、WHOは、パンデミックの定義に、重症度も考慮に入れるという考えを捨てた。 なぜ? その理由は色々考えられるが、全て憶測に過ぎない。 しかし一つだけ確かな理由はあると、シュピーゲルの編集陣は述べている。 ジュネーブのWHOと強い関係を持つ団体が、可能な限り早期にフェーズ6宣言を行うことに多大な関心を抱いていたことである。 その団体とは製薬企業である。 シュピーゲルの編集陣は、WHOのパンデミック宣言に世界の大手製薬企業の圧力があったと推定している。 2010年1月末にフランスのストラスブルグに本部のあるヨーロッパ評議会で、WHOのパンデミック宣言の妥当性に関して公聴会が開かれた。 WHOのパンデミックインフルエンザ責任者であるケイジ・フクダ氏も出席して、WHOの考え方を説明している。 「製薬企業は、我々のパンデミック決定に何ら影響はもっていなかった」と同氏は語っている。 しかし2009年5月中旬、パンデミック宣言の3週前に製薬企業の代表30人がチャンWHO事務局長と国連のバン・ギムン事務総長と会っている。 会談の公的目的は、途上国へのワクチン提供の確保ということになっていた。 しかしこの時点で製薬企業は一つの問題にしか興味を持っていなかった。 それはWHOによるフェーズ6宣言である。 シュピーゲルの編集者達はこの状況について次のように表現している。 全てはパンデミック宣言に絡んでいる。 それにより、世界の人口に大量のワクチンを供給する決定がなされる。 宣言により企業のレジスターがベルの音と共に開く。 全くリスクを伴わない現金収入となる。 その理由は、既に多くの国と製薬企業の間で、WHOのパンデミック宣言時に、ワクチンを購入する契約がなされていたからである。 例えば、ドイツは英国のグラクソスミスクライン社と2007年に、パンデミック宣言がなされると直ちにパンデミックワクチンを購入することを契約している。 それ故英国政府の科学的顧問であるロイ・アンダーソン教授が、5月1日に、ブタインフルエンザはパンデミック状態であると発表した際、教授の発言意図が詮索された。 同教授はグラクソスミスクライン社から年収として17万7千ドル以上得ているとされるが、同教授はそれについてはノーコメントである。 WHOによるパンデミック宣言がなされた後、6月中旬、グラクソスミスクライン社のドイツ支社のトップが、ドイツの保健大臣ウラ・シュミット氏に、契約に従った供給量の確認を求めた。 また同社はドイツ国内の各州に対して、契約に従った発注を行うように求めた。 (各州が連邦政府経由で発注契約していた)。 2009年8月29日。 シュピーゲル編集部は世論調査でドイツ国内のワクチン接種希望者はわずか13%しかいないことを確認し発表した。 しかし9月7日、連邦保健大臣はドイツ国民全員(人口8200万人)に接種するだけのワクチン量が必要と主張し、既に発注していた5000万接種量に、1800万接種量の追加購入を各州の保健大臣に要求した。 多くは反対の意見を呈したが、専門家や製薬企業からの圧力にも近い警告の言葉が影響していて、各州は反対しきれなかったとされる。 ロベルト・コッホ研究所をはじめとする国内の研究所の専門家達が、このパンデミックでドイツ国内で8万人の死者が出て、数兆円の経済的損失が出るだろうと6月に警告を発していたからだ。 また製薬企業は各州の保健局に、購入ワクチン量および抗インフルエンザ薬量等の確認を、最後通牒のように頻繁に連絡してきた。 感染者はさらに多く増えるが、それだけの量で十分なのかと、それは警告に近い。 2009年10月9日、ドイツ医学協会の薬品委員会委員長が次のように語っている。 保健当局は製薬企業のキャンペーンに引きずり込まれた。 製薬企業は収入を増やすために様々な形で想定される脅威をアピールしていた。 2009年10月21日。 そのように語ったのは高名なアドルフ・ウィンドルファー教授であった。 彼はその根拠無き煽りを批判され、圧力を受けると、英国のグラクソスミスクライン社とスイスのノバルティス社を含む製薬企業から報酬を受けていることを認めた。 2009年11月28日。 ドイツ国内でブタインフルエンザは下火に向かった。 誰もワクチン接種を希望しなかった。 2009年12月8日。 英国の道路サービスでは国内の氷結した路面に砂を撒いていた。 労働党下院議員のポール・フリン氏は、英国議会で、政府の備蓄している不必要なタミフルを砂の代わりに路面に撒くことを要求。 2010年1月26日。 ウォルフガング・ウダルグ氏(ドイツ議会議員)がストラスブルグに本部があるヨーロッパ評議会に、世界中で多数の人々が正当な理由無くしてワクチン接種を受けていると告発。 ウダルグ氏によるとWHOのパンデミック宣言により、製薬企業に180億ドル(約2兆円)の新たな収益がもたらされたという。 年間のタミフル売り上げも435%に増えて22億ユーロ(2700億円)となった。 2010年3月5日。 ドイツ政府は1000万接種量のワクチン(パンデムリクス)をパキスタンに売却することを考慮中と発表。 2010年3月初旬。 かってパンデミックインフルエンザ対策室として使われていたWHO本部の健康戦略指令センター(Strategic Health Operations Center:SHOC)は、他の災害対策等に使われ、パンデミックインフルエンザ対策には使われていない。 WHOの(パンデミックに対する)雰囲気は緊張感が失われつつある。 プレスオフィスには絶えずスタッフが待機していることはなくなった。 職員駐車場にジャーナリストのために用意されたテントは既に撤去されている。 しかしWHOの専門家委員会は、未だパンデミックがピークを越えたとは宣言していない。 このパンデミックとは何だったのか?行われた対策は全て緊急対策として理にかなっていたのだろうか?WHO顧問や製薬企業のロビイスト達が推し進めた対策。 当局は全て正しいことを行ったのだろうか。 シュピーゲルの編集者達はそのような疑問を発し、そして次のように結論している。 間違いなく、違う。 WHOも、ロベルト・コッホ研究所も、さらには他の専門家達も(医科学専門機関として)プライドを持つべきだったのだ。 これはパンデミックと呼ぶべきものだったのか? そもそもパンデミックとは何なのか? 不思議なことに米国や日本では、現在そのような議論は起きていない。 コラムニスト一覧• 稲毛真樹• 月別アーカイブ•

次の

ブタインフルエンザに対する対応について(事務連絡)|厚生労働省

ブタインフルエンザ

1 インフルエンザとは何か? 「インフルエンザ」は、主に呼吸器に感染するインフルエンザウイルスが引き起こす病気です。 16 世紀のイタリアでは、インフルエンザは「天体の影響」によって起こると考えられ、イタリア語の「影響」を意味する「 influenza 」という名前が付きました。 インフルエンザは、 1 〜 3 日の潜伏期間のあと、関節痛・筋肉痛・全身倦怠感などを伴う「風邪症状」を引き起こします。 症状が似ているため、「風邪」の一種だと思われがちですが、普通の風邪とは同列に語れないほどの危険性を持つ病気です。 そのため、症状の出始めから、激しい全身症状が表れ、寝込んでしまうことが多いです。 腹痛・嘔吐・下痢といった消化器症状を伴う場合もあります。 まれに通常の風邪程度で済むこともありますが、たいしたことないと思って外を出歩くと、インフルエンザウイルスを周囲にばら撒いて、感染を拡大させることになります。 これが、冬季にインフルエンザが流行する理由です。 さらにこの時期は、気温が下がって、人間の免疫機能も低下するので、なおさらインフルエンザにかかりやすくなるのです。 冬季は屋内で過ごす人が多くなり、換気の回数も減少するので、集団感染のリスクも高まります。 日本では、毎年 11 月下旬から 12 月上旬頃に最初の発生が起こり、翌年の 1 〜 3 月頃にその数が増加してピークを迎え、 4 〜 5 月頃に流行が収まるパターンです。 全世界では、毎年 300 〜 500 万人がインフルエンザに感染し、 25 〜 50 万人の死者を出しています。 先進国における死者は、 65 歳以上人口で最も多く、また病欠・生産性低下といった社会的コストも大きいです。 1 「インフルエンザウイルス」の表面には突起が付いており、これで宿主細胞の表面に吸着する インフルエンザの危険な点は、その強力な「感染力」にあります。 「電車に 30 分程いたとして、そこに発病中の人が乗っていて、その人が 1 回クシャミをしただけで、 8 割以上の乗客が感染してしまう」というぐらいに、強力な感染力を持ちます。 インフルエンザにかかった人の体内、特に気道粘膜などの呼吸に関係するところには、インフルエンザウイルスが増殖しています。 そのウイルスは、咳やクシャミに乗って、周囲の空気にばら撒かれます。 一方で、直接ではないにしろ、咳やクシャミでばら撒かれたウイルスが空気中に浮遊し、それを近くの人が吸い込めば、「空気感染」になります。 空気中に唾液などの飛沫に混じって「エアロゾル」として放出されたウイルスは、クシャミ 1 回で 10 万個にも及び、空気中で 30 分近くも高い感染力を保ちます。 そして、ウイルスが数個ほど侵入しただけで、感染する危険性を持っています。 呼吸器だけでなく、目や鼻の粘膜などからも侵入するので、インフルエンザに感染している人が近くにいる場合、感染を防ぐ手段は、ほとんどありません。 1 個のインフルエンザウイルスは、 8 時間で 100 倍に、 24 時間で 100 万倍になり、感染から 1 〜 3 日ほどで、感染可能な発病状態になります。 このように、インフルエンザは極めて高い感染力を持ち、ヒトの遺伝子の突然変異の 1,000 倍という驚異的な速度で変異するため、生物兵器としては危険すぎて、使用できないともいわれています。 1918 年から 1919 年にかけて世界中で大流行した「スペイン風邪」では、地球の人口の半分とも、 10 億人ともいわれる人が感染し、数千万人が死亡、日本でも 39 万人以上が死亡しました。 当時は第一次世界大戦の最中で、まず連合国軍の、次いでドイツ軍の陣地を、インフルエンザウイルスが襲いかかり、戦局に重大な影響を及ぼすほど多くの患者と死者を生み出しました。 アメリカの記録では、この「スペイン風邪」によるアメリカ軍兵士の死亡者数は、戦闘による死亡者数を上回っていたといいます。 そして、第一次世界大戦そのものも、この大惨事によって、終結が早まったほどでした。 1919 年に終息を見るまでに、感染者が北極圏から南太平洋の小島にまで出現し、人類の感染症の歴史上最大の「パンデミック 世界的大流行 」となりました。 2 第一次世界大戦下、「スペイン風邪」は史上最大の「パンデミック」となった なお、インフルエンザの病原体はウイルスですが、「インフルエンザ菌」というものもあります。 これは、まだインフルエンザウイルスが発見されていなかった頃、日本の細菌学者である北里柴三郎が、重症のインフルエンザ患者の気道上皮細胞から検出した細菌です。 「これがインフルエンザの病原体なのではないか」ということで、「インフルエンザ菌」と命名されました。 この菌を感染させた実験動物が、咳や発熱などの症状を示すことも、誤解を深める原因となったようです。 何だかややこしいようですが、インフルエンザ菌は、インフルエンザウイルスに感染して、免疫力が低下した患者に「二次感染」するものであり、これがインフルエンザの原因となるものではありません。 インフルエンザは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる感染症です。 インフルエンザウイルスは、ヒトの他に、ウマやニワトリ、ブタ、クジラ、アザラシなどにも感染します。 突然変異を繰り返し、遺伝子を少しずつ変化させながら、数々の哺乳類を巡回するように感染していくのです。 インフルエンザウイルスには、遺伝子複製の際に起こるエラーの修復機構が存在せず、ウイルス同士の遺伝子の組み換えも発生しやすいため、動物での感染が拡大するほど、「新型インフルエンザ」が発生する可能性は高くなります。 ヒトに感染する前にニワトリで大規模な被害が出ることが多いので、「トリインフルエンザ」の蔓延には、随分と慎重になっている訳です。 現在では、東南アジア付近を中心にして発生している毒性の強い新型インフルエンザウイルスが、近い将来突然変異を起こし、ヒトからヒトへの感染能を獲得してしまうのではないかと恐れられています。 3 「トリインフルエンザ」から「新型インフルエンザ」が発生する危険性がある インフルエンザウイルスは、本来はカモなどの水鳥を自然宿主として、その腸内に感染する弱毒性のウイルスであったものが、突然変異によって、ヒトの呼吸器への感染性を獲得したものと考えられています。 インフルエンザウイルスは、ウイルス粒子を構成するタンパク質の免疫原性によって、大きく「 A 型インフルエンザウイルス」・「 B 型インフルエンザウイルス」・「 C 型インフルエンザウイルス」の 3 種類に分けられます。 普通に「インフルエンザ」という場合は、特に A 型か B 型のものを指し、その中でもさらにヒトに感染するものを意味する場合が多いです。 「 A 型インフルエンザウイルス」は、ヒトの他にウマ、ニワトリ、ブタ、クジラ、アザラシなどに感染するウイルスです。 スイスのノバルティス社が販売する「アマンタジン」という薬が有効なことが、昔から知られています。 流行性が最も強くて、症状が重いのが特徴です。 よくニュースなどで耳にする「トリインフルエンザ」は、一般的に危険なものというイメージがありますが、トリとヒトでは、細胞表面の構造が異なるため、一般的に「トリインフルエンザ」がヒトに直接感染したり、「ヒトインフルエンザ」がトリに直接感染したりする可能性は低いです。 仮にヒトがトリインフルエンザに感染したとしても、ヒトからヒトへの伝染は起こりにくいと考えられています。 しかし、このウイルスの遺伝子が突然変異を起こしたり、ニワトリやブタの体内で、他のタイプの A 型ウイルスと出会って遺伝子の組み換えが起こったりすると、ヒトからヒトへと感染して、パンデミックを引き起こすような危険なウイルスに姿を変えることがあります。 特にブタは、「ヒトインフルエンザ」と「トリインフルエンザ」の両方に感染することが知られているため、ブタの体内で「遺伝子再集合」が起こってウイルスの遺伝子が混じり合い、「新型インフルエンザウイルス」が出現する可能性が指摘されています。 なお、最近流行する A 型ウイルスには、アマンタジンが効かないケースが増えているといいます。 これは、中国で感染予防のため、アマンタジンが家畜の餌に混ぜられて、大量に使用されたために、「薬剤耐性」をウイルスが獲得したためです。 4 「アマンタジン」は、「 A 型インフルエンザ」の治療薬として知られている 「 B 型インフルエンザウイルス」は、ヒトとアザラシだけに感染し、流行性がやや強いウイルスです。 A 型の流行が終わった直後の 2 月から 3 月頃にかけて流行することが多いインフルエンザです。 宿主域が狭いので、 A 型のようなパンデミックの危険性はありません。 しかし、 B 型にはアマンタジンが効かないので、スイスのロシュ社より販売されている「タミフル」が出てくるまで、なかなか有効な薬がありませんでした。 A 型では、アマンタジンに耐性を持つウイルスがすでに出現しているので、十数年もすれば、タミフルの効かない B 型が出てくる可能性もあります。 B 型は、高熱にはなりにくいものの、体内にウイルスが残留する期間が長いため、身近な人に移してしまう危険性が懸念されます。 「 C 型インフルエンザウイルス」は、あまり耳にすることがないかもしれませんが、ヒトとブタだけに感染し、流行性が低いものの、免疫力の弱い 5 歳以下の子供が感染する危険性があるウイルスです。 A 型と B 型が「季節性インフルエンザ」なのに対し、 C 型は「通年性インフルエンザ」です。 小児期にほとんどすべての人が感染しますが、この時期に感染しなかった場合は、大人になってから感染することがあります。 しかし、感染したとしても、インフルエンザと認識せず、風邪と間違える程度です。 C 型は、感染力の弱さや症状の気付きにくさから、流行性はほとんどありません。 さらに、一度感染すると、免疫はほぼ一生持続するため、人生で 2 回かかることもまれとされています。 2 インフルエンザウイルスの分類別特性 型 特徴 主症状 流行シーズン A 型 ウイルスの変異が著しく、 100 種類以上の亜型が存在する。 毎年少しずつ変化しながら、世界中で季節性の流行を引き起こす 高熱・上気道炎症・呼吸器疾患。 肺炎やインフルエンザ脳症などの合併症を起こす危険性あり 12 〜 3 月 B 型 ウイルスが A 型よりも変異しにくいので、予防接種により抗体を作ることが可能。 A 型ほどの流行は起こさない 高熱・上気道炎症・呼吸器疾患。 A 型よりも症状は軽度の場合が多い 2 〜 3 月 C 型 表面を覆う突起の性質が A 型や B 型と大きく異なる。 感染力が低く、 5 歳以下の小児に主に感染する。 季節性流行は起こさない 鼻汁過多を特徴とする鼻風邪様の症状を呈する。 一度罹患すると、免疫はほぼ一生持続する 通年 ほとんど特効薬のないインフルエンザウイルスですが、化学の目で見ると、弱点もあります。 つまり、インフルエンザウイルスは、油の膜で守られているのです。 そこで、有機溶媒はもちろん、洗剤のような界面活性剤が弱点になります。 セッケンで洗ったり、アルコールで洗浄したりすると、インフルエンザウイルスは油の膜が剥がれて、即死します。 ウイルス感染は、空気中のエアロゾルだけでなく、手や衣類に付着した飛沫からも起きることがあるため、手洗いが感染予防に有効です。 うがいをするときに飲み込む人がいますが、胃の中に入ると、インフルエンザウイルスは胃酸で即死します。 2 恐怖の新型インフルエンザ 2009 年のメキシコ発の「新型インフルエンザ H1N1 型 」は、瞬く間に世界中に感染拡大してパンデミックとなり、大騒ぎになりました。 振り返ると、あのウイルスはほとんどの人が軽症で回復し、致死率も季節性インフルエンザと同じぐらいのものだったので、そこまで大騒ぎする必要はなかったように思えます。 それでは、なぜあのような大騒ぎになったのでしょうか。 それは、インフルエンザの中には、「 H5N1 型」という悪魔のようなウイルスがいるからです。 1918 年から 1919 年にかけて大流行した「スペイン風邪」では、世界中で数千万人が死亡しました。 これは、結局「 H1N1 型」のインフルエンザでしたが、当時はインフルエンザではなく、「風邪」の一種であると考えられていました。 スペイン風邪は、「弱毒性」のインフルエンザだったからです。 それでも、スペイン風邪では、致死率が約 2. そして、「 H5N1 型」のインフルエンザは、スペイン風邪よりもかなり強い毒性を持っていると考えられているのです。 「弱毒性インフルエンザ」は、ヒトの呼吸器や腸管のみで増殖し、主に呼吸器疾患を引き起こします。 喉が痛くなり、鼻が詰まります。 そして、気管支炎になり、酷い場合には肺炎になります。 ダメージを受けるのは呼吸器系だけですが、それでも人は死ぬことがあります。 ところが、「強毒性インフルエンザ」は、呼吸器感染に止まらず、脳を含む全身の臓器でウイルスが増殖して、全身感染を引き起こします。 さらに、ウイルス感染に対する過剰な生体防御反応、すなわち「サイトカインストーム」が起こる結果、様々な臓器が障害を受け、多臓器不全がもたらされる危険性があると考えられています。 ところが、現在では飛行機や新幹線などの交通手段が発達しているため、仮に新型インフルエンザ H5N1 型 が流行した場合、ものの 4 〜 5 日で、ウイルスは世界中に伝播すると考えられています。 そして、これを食い止めることは、ほぼ不可能なのです。 なぜなら、インフルエンザの感染期間は発熱前にもあるので、疫病が判明して、感染が広がっていると判明した時点では、もうすでに感染者が移動しているからです。 こういう意味で、 2010 年のインフルエンザ流行時に行われた空港の体温検査などは、全く効果がないと主張する研究者さえいました。 新型インフルエンザ H5N1 型 が流行すると、最悪の場合では、 64 万〜 210 万人が死亡すると想定されています。 もちろん、ライフラインの寸断など、生活にも大きな影響が予想され、経済的損失は、世界で 500 兆円を超えるという試算もなされています。 新型インフルエンザ H5N1 型 は、現在人類が直面する「最も大きなリスク」といっても過言ではありません。 5 新型インフルエンザにより、死者・行方不明者 10 万人を出した「関東大震災」の数倍以上の犠牲者が出ると考えられている 日本で新型インフルエンザ H5N1 型 が流行しそうになった場合、トリインフルエンザを基にして、厚生労働省が予防のための「プレパンデミックワクチン」を製造し、 1,000 万人分規模の備蓄をするそうです。 このワクチンは、新型インフルエンザ H5N1 型 の発症を完全に防ぐことはできませんが、重症化を防いで、致死率を大幅に下げると考えられています。 しかし、 1,000 万人分規模の予防ワクチンの使用優先順位は、まず医療従事者である医師と看護師です。 医療従事者は感染する可能性が高く、医療体制を維持するためにも、これは当然のことと考えられます。 それから、国会議員とライフライン従事者にも優先的に予防ワクチンを打ちます。 そして残念ながら、一般市民には予防ワクチンは回ってこないのです。 残りの 1 億人以上への対応としては、厚生労働省は発症後、タミフルを服用することで対応しようとしています。 ただし、ウイルスは突然変異を起こすこともあり得ます。 そして、タミフルへの耐性を持ったインフルエンザも現れると考えられています。 新型インフルエンザ H5N1 型 に関しては、まだヒトからヒトへの感染が広まっていないので、当面はタミフルで対応できると予想されています。 しかし、実際にはどうなるか見当も付きません。 タミフルで応急対策したあとでは、厚生労働省は実際に流行している新型インフルエンザウイルスを基にして、「パンデミックワクチン」を製造します。 このワクチンは、実際に新型インフルエンザ H5N1 型 が発生しなければ、製造できません。 そのため、新型インフルエンザ H5N1 型 が発生してから、少なくとも半年ほどはかかり、全国民分を用意するのには、 1 年以上かかると予測されます。 実際に 2009 年の新型インフルエンザ H1N1 型 では、発生から約 6 カ月後にパンデミックワクチンの接種が開始されましたが、すでに流行は下火になりかけており、せっかく製造されたパンデミックワクチンが大量に余ってしまう結果になりました。 4 「パンデミックワクチン」と「プレパンデミックワクチン」の違い パンデミックワクチン プレパンデミックワクチン 接種対象者 国民全員 医療従事者・国会議員・ ライフライン従事者 備蓄量 備蓄不可能 1,000 万人分備蓄 製造時期 パンデミック発生後 1 年半で国民全員分を製造 パンデミック発生前 インフルエンザ H5N1 型 は、現在は「 H5N1 型のトリインフルエンザ」といわれています。 まだ、ニワトリの間でしか感染が広まっていないからです。 ただし、ニワトリから人間に感染することもまれにあります。 トリインフルエンザは、ニワトリからブタを経由してヒトに感染することが多いのですが、ブタを介さずにヒトに直接感染するという事例も数多く報告されているからです。 ただし、ヒトからヒトへと感染したという事例は、未だ報告されていません。 疑われた例はあるにはあるのですが、途上国は情報を隠蔽しますし、少なくとも日本では発見されていないのです。 もしインフルエンザ H5N1 型 が、ヒトからヒトへと普通に感染するところまで突然変異した場合、瞬く間にウイルスは広がり、大勢の死者が出てくると想定されます。 名前こそインフルエンザですが、全く別物の病気と考えるべきでしょう。 日本では、養鶏場でトリインフルエンザが発生した場合、発生地点の 5 〜 10 km 範囲のニワトリなどをすべて殺処分しています。 「やりすぎじゃないか?」と思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。 感染を防いでおくためにできることをしておかないと、すぐに人間の世界で蔓延してしまうからです。 ただし、地球の裏から表にすぐに感染者が広がってしまう時代ですから、他国もきちんと対策を取らないと、結局はパンデミックが起こってしまいます。 先進国は、感染者が出たときには公表して封じ込めますが、途上国は必ずしもそうではありません。 新型インフルエンザ H5N1 型 の流行を防ぐためには、一地域に留まらない世界的な対応が不可欠なのです。 6 トリインフルエンザが確認され次第、都道府県知事の権限により、殺処分命令が発せられる 3 タミフルは安全なのか? インフルエンザ対応の基本は「ワクチン療法」ですが、これはウイルスが出現してからでないと作成できず、また供給に半年ほどの時間を必要とします。 その間のつなぎとして期待されているのが、スイスのロシュ社が販売する抗ウイルス剤の「タミフル 化合物名:リン酸オセルタミブル 」です。 タミフルは、日本では 2001 年から使われています。 タミフルのメカニズムは、ウイルスの増殖を防ぐのではなく、増殖してしまった子ウイルスの拡散を防ぐというものです。 インフルエンザウイルスは、宿主細胞の表面にある「シアル酸」に結合して、細胞内部に入り込んで増殖します。 しかし、増殖したウイルスが細胞外へ出ようとするとき、大きな問題が生じます。 細胞表面には、多数のシアル酸分子が存在しているからです。 つまり、増殖した子ウイルスがそのまま細胞外へ出ても、表面にあるシアル酸に結合してしまって、遠くに拡散することができないのです。 そこで、ウイルスは「ノイラミニダーゼ」という酵素を働かせ、細胞表面のシアル酸を切り取ってしまいます。 すると、引き止めておくものもなくなるので、子ウイルスたちは無事に細胞外へと脱出していき、次の細胞へと感染を広げていける訳です。 7 インフルエンザウイルスは、細胞表面にある「シアル酸」に結合することで、細胞内部へと進入する インフルエンザウイルスの持つノイラミニダーゼに結合し、その働きを食い止める化合物を送り込めば、ウイルスは外部へと拡散できなくなり、感染拡大を抑えられるはずです。 最初に、シアル酸によく似た化合物が作られ、これを体内に送り込めば、インフルエンザの症状悪化を食い止められることが明らかになりました。 ただし、この化合物は口から飲み込むと、上手く吸収されないために医薬になり得ません。 そこで、噴霧器で薬を喉に吹き付けて、粘膜にいるウイルスを直接狙う形で投与を行う手法が考えられました。 これが「リレンザ 化合物名:ザナミビル 」です。 リレンザは、 B 型には効きにくく、 C 型には無効ですが、 A 型のインフルエンザに有効でした。 これは、 C 型がノイラミニダーゼを持たないためです。 また、この薬の投与には「ディスクヘラー」という専用の吸入器具を必要とし、特に子供や高齢者への投与には問題がありました。 8 「リレンザ」は、世界で最初に開発された抗インフルエンザ薬である そこで、このリレンザの化学構造を変換し、経口投与可能な薬に仕立て上げたものがタミフルです。 タミフルは、飲みやすさや手軽さから広く受け入れられ、抗インフルエンザ薬の市場を席巻する大ヒットとなりました。 タミフルは、リレンザと同様に B 型には効きにくく、 C 型には無効ですが、 A 型のインフルエンザには有効であるとされています。 タミフルは、増殖してしまった子ウイルスの拡散を防ぐ作用を持つので、感染初期 発症後 48 時間以内 のウイルスがまだ少数のうちに服用すれば、症状の悪化を防ぐことができます。 十分な量のタミフルを確保することができれば、新型インフルエンザ H5N1 型 による死者・入院患者は、 3 分の 1 にまで減らせるという予想もあり、現在最も効果が期待できる薬剤と考えられています。 9 「タミフル」は、 新型インフルエンザ H5N1 型 にもある程度有効であると考えられている そのタミフルに「副作用」の問題が浮上してきたのは、 2005 年 11 月のことでした。 インフルエンザの患者の少年が、タミフル服用後に、自らトラックに飛び込むなどの「異常行動」を起こし、 2 名が死亡したというものです。 その後、 10 代の患者を中心に、マンションから飛び降りる、訳の分からないことを言いながら部屋を駆け回る、笑いながら階段を上り始めるといった異常行動の報告例が増え続け、マスコミの報道も、それに合わせてヒートアップしていきました。 発売元の製薬会社や厚生労働省は、ニュースや週刊誌などで集中砲火を浴び、「悪魔の薬」や「薬害エイズ事件の再来」といった過激な論調の記事も少なくありませんでした。 厚生労働省では、しばらく「タミフルとの因果関係の特定は困難」としてきましたが、世論の高まりを受けて、 2007 年 3 月に「因果関係は不明であるものの、 10 代の患者のタミフル使用を差し控えるよう」通告する事態となりました。 こうして使用制限がなされるまでの間に、タミフル服用後に異常行動 ベッドの上で飛び上がった程度のものまで を起こした人数は 211 名にも及び、その 8 割が 10 代でした。 うち十数名が、窓からの転落などによって亡くなっています。 10 2005 年 11 月 12 日、タミフルを服用していた 2 名の患者が異常行動の結果、事故死していたことが報道された 世間では、こうしたタミフルに対する批判的なイメージが根強く、インフルエンザの治療にタミフルが使用されることを支持しないという人も、少なからず存在します。 しかし、タミフルの服用者は、日本では延べ 3,500 万人〜 4,500 万人ほどと見られていますが、軽度な異常行動の報告は 200 件前後、転落死などの重度な異常行動の報告は 20 人弱に過ぎません。 つまり、そのすべての原因がタミフルによるものであったと仮定しても、異常行動を起こす確率は約 20 万分の 1 、転落死する確率は約 200 万分の 1 程度ということになるのです。 この 200 万分の 1 という確率は、交通事故で死ぬ確率 1 万分の 1 、航空事故で死ぬ確率 20 万分の 1 よりも、十分に小さい数字です。 そして、航空事故はいくら気を付けていても避けようがありませんが、異常行動による転落死は、周囲で気を付けていれば、かなりの割合で防げるリスクです。 異常行動を起こしそうな患者を、 1 人にしないようにすればいいだけですから。 「 1 万分の 1 以下のリスクなら、受け入れるのが現代人の姿勢だろう」と述べたケンブリッジ大学のジョン・エムズリーのように、私たちはこの程度のリスクは、許容して然るべきだと思います を参照。 そして、各種のデータを見る限り、タミフルによるインフルエンザの治療は、十分有効であると考えられるのです。 流行する型によっても異なりますが、インフルエンザはいったん流行し始めると、国内だけで毎冬 1,000 万人もの人々が感染し、そのうちの 1,000 人ぐらいが死亡することは珍しくありません。 タミフルは、この死者数を大幅に減少させることができるのです。 きちんとタミフルを服用することにより、インフルエンザによる致死率が大幅に低下したという報告が、欧米の複数のグループからなされています。 すなわち、タミフルの承認を取り消すということは、こうした恐ろしい病気であるインフルエンザの有効な治療手段を、奪い去ってしまうということになるのです。 もちろん、単純に罹患期間が短くなることで、他人に感染させる確率が下がること、患者の身体的、経済的負担が減るなどの効果も見逃せません。 それに加え、そもそもタミフルを服用した際の異常行動が、タミフルが原因であると簡単に帰結することはできないのです。 まず、こうした異常行動は、インフルエンザ単独の症状「インフルエンザ脳症」として、まれに起こることが以前から知られていました。 つまり、異常行動はタミフルのせいなのか、インフルエンザそのもののせいなのか、区別を付けるのは非常に困難なのです。 実際、三重県のある病院では、異常行動を起こしたインフルエンザ患者が、一冬に 14 人入院しましたが、うち 6 例は、タミフルの投与前に異常行動が起こっていたということです。 また、厚生労働省の調査班は、 2007 年 12 月に「 18 歳以下のインフルエンザ患者 1 万人を対象とした大規模調査の結果、タミフル使用者の方が非服用者に比べて異常行動は少なかった」という結果を発表しています。 扁桃腺炎で高熱を出した小児が、異常行動を起こしたという例もあり、こうした異常行動は、いわゆる「熱に浮かされた」状態では、まれに起こり得ることなのです。 そして、タミフルが直接脳に作用して異常行動を引き起こすという説もありますが、実際には、タミフルが脳内に入り込むことはありません。 摂取した薬剤は、血液に乗って全身に運ばれますが、脳と血管の間には、「血液脳関門」と呼ばれる物質の移動を制限する関所のようなものがあり、タミフルのような極性の高い分子は、これを通過できないようになっているのです。 2006 年 7 月にタミフルを飲んだあとで転落死した少年の遺体を解剖した結果、血液中には十分な量のタミフルが存在したのに、脳からは全く検出されませんでした。 また、脳内の主要なタンパク質 155 種について、タミフルと相互作用するものがあるかどうかの試験が行われていますが、強く結合して影響を与えるものは見つかっていません。 通常の季節性インフルエンザによる死亡者は、小児と老年層に多いのですが、新型インフルエンザ H5N1 型 では、 10 代から 30 代までの若年層の致死率も高くなると想定されています。 新型インフルエンザ H5N1 型 のパンデミックが発生してしまったとき、「異常行動が怖い」とタミフルを拒否する若者が出てきたら、それは安易な刺激や数字だけを求め、危険を煽るだけ煽ったマスコミの責任です。 異常行動が問題となった 2007 年以降、タミフルの 10 代への処方は原則禁止となっています。 総合的にリスクと利益を考えた場合、現時点では新型インフルエンザ H5N1 型 に対して、 10 代であろうと、タミフル服用をためらう理由は何もありません。 どんな物事にもいえることですが、私たちはリスクと利益を正確に見定め、その是非を判断しなければならないのです。 4 新薬ゾフルーザにも耐性ウイルス 2018 年に販売が開始されて話題となったのが、塩野義製薬が開発したインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ 商品名バロキサビル マルボキシル 」です。 症状改善効果は従来使用されてきたタミフルとほぼ同様であり、内服が 1 回で済むなどの簡便性から、 2018 年度は既存の抗インフルエンザ薬を上回るシェアを誇り、 263 億円を売り上げました。 ゾフルーザは、タミフルやリレンザなどのノイラミニダーゼ阻害薬とは作用機序が異なり、ウイルスが細胞内に侵入したあとに増殖するために使う酵素を阻害し、ウイルスの複製を阻止する作用があります。 ウイルスが増殖できずにそのまま死滅するため、 1 回の投与で 1 日以内に症状を抑える効果があります。 タミフルなどと比べて早期に効果があるため、抗ウイルス効果が高いとされ、投与翌日には半数以上の患者で、感染性を持つウイルス量が減っていることが認められました。 11 「ゾフルーザ」は 1 回の投与で治療が完了するので、爆発的にヒットした しかし、ゾフルーザの販売直後から、耐性ウイルスが話題になってきました。 2019 年 11 月、東京大学のチームは、ゾフルーザを投与された患者から、ゾフルーザ耐性ウイルスを検出したと発表しました。 この研究によると、特に 15 歳以下の小児の 3 割程度に耐性ウイルスが検出されているといいます。 日本感染症学会インフルエンザ委員会では、ゾフルーザの小児への使用について、「小児では慎重に投与を検討すべき」という提言を発表しています。

次の